この度、ピリオド弓の取り扱いを始めました!
この「ピリオド弓(period bow)」は、特定の歴史的時代様式に基づいて作られた弓を指します。
皆さんも次のような言葉を聞いたことがありませんか?バロック弓・クラシカル弓・トランジション期の弓・・・etc.
まずはバロック弓(Baroque bow)の紹介です。バロック弓は、17〜18世紀に使われていたバイオリンの弓で、バッハやヴィヴァルディなど、バロック時代の音楽を演奏するために欠かせない道具です。
この弓は、現代の弓よりも短くて軽く、弓先が低く、反り(カンバー)が外向きだったり、まっすぐだったりします。そのため、力強い音を出すのには向いていませんが、繊細で歌うようなフレーズを演奏するのにとても適しています。
バロック弓の特徴は、自然な弓の流れと、語りかけるような音色。モダン弓のように押し込んで音を出すのではなく、弦にそっと触れ、音を引き出すように弾きます。そのため、演奏者の感性や呼吸がダイレクトに音に現れます。
ピリオド(古楽)演奏に興味がある方にとって、バロック弓は“音楽の原点”を感じさせてくれる特別な存在です。今までとひと味違う音楽体験を求める方に、ぜひ一度手に取ってみていただきたい弓ですね!
続いては、クラシカル弓(Classical bow)です。クラシカル弓は、バロック弓と現代のモダン弓の中間に位置する、18世紀後半から19世紀初頭にかけて使われていた弓です。スティックはバロック弓よりも長く、反りが強くなり、フロッグもより丸みを帯びた形状が特徴です。
これにより、クラシカル弓はより大きな音量と表現力を持ち、繊細なニュアンスから力強いフレーズまで対応できるようになりました。モーツァルトやベートーヴェンといった作曲家の作品を、当時の響きで演奏するには欠かせない存在です。
有名な例としては「クラーマー(Cramer)弓」があり、高くハンマー型のヘッドと優れたバランスで知られています。また、後にモダン弓を確立したフランソワ・トルテもこの時代に改良を重ね、クラシカル弓の発展に大きく貢献しました。クラシカル弓は、ピリオド演奏を志す奏者にとって重要なツールであり、弓の歴史を知るうえでも興味深い存在です。
そして、トランジショナル弓(Transitional bow)です。「トランジショナル弓」とは、18世紀末から19世紀中頃にかけて使われた、クラシカル弓とモダン弓の“過渡期”にあたる弓のことを指します。音楽の様式がバロックから古典派、そしてロマン派へと移行していく中で、弓もまた大きく進化していきました。
クラシカル弓は、バロック弓より長く、反りを強くしたことで、より力強い音と多彩な表現を可能にしましたが、まだ完全にモダン弓の形には至っていません。
それに対し、トランジショナル弓は形状・構造ともにモダン弓にかなり近づいたスタイルです。
スティックはよりしっかりと反り、フロッグは金属製のネジで固定され、より現代的な演奏技法に対応できるように設計されています。ただし、弓の長さや重さ、バランスなどにはまだ個体差が大きく、職人によってさまざまなスタイルが試みられていた時期でもあります。
特にベートーヴェン後期やシューベルト、シューマンといった作曲家の作品は、クラシカル弓ではやや限界を感じる場面もあり、このトランジショナル弓が重要な役割を果たしました。
現在、Sirena Fine Violins&Ken Chinone Violin Maker/Restorerで取り扱っているピリオド弓をいくつかご紹介します!
小田原にて弓の製作・修理・修復を行っている【アトリエ カマタ】の鎌田悟史氏によるピリオド弓です!
1. Baroque Bow in style of 17th century (screw mechanism)
こちらは17世紀のスタイルで作られたバロック弓となります。本来固定式(クリップイン)だったものを、鎌田氏のアイデアでアジャスターによる調整が出来る様に作られています。また弓先に工夫がしてあり、非常に演奏しやすい弓となっています。


2. Baroque Bow in style of Pierre Tourte
こちらもバロック弓ですが、ピエール・トルテ(レオナルドとフランソワの父親)の作風に倣って製作された弓です。


3. Baroque Bow, Leonard Tourte model
こちらは上述したピエールの息子であり、弓のストラディヴァリと称されるフランソワの兄にあたるレオナルドのモデルで作られたバロック弓です。


4. Transitional Bow, Dodd model
そしてこちらは、イギリスの弓製作家Doddをモデルとしたトランジショナル弓となります。


また、10月頃に固定式(クリップイン)のバロック弓とオールドのクラシカル弓が入荷予定になっています。そちらもお楽しみにお待ちください!